2015年6月21日日曜日

現場指向のネットワーク設計

 劇場や舞台分野において、通信ネットワーク技術を、特別な存在という定義で、ステージ分野と隔離した扱いにするのは、甚だ問題だと言えるだろう。なぜなら、ネットワークの仕組みも、そこにつながるI/O機器もすべて、舞台技術者の仕事であり、もし万が一、何らかの問題が起こった際、緊迫した状況で、幕を開けるのは、現場スタッフ以外にありえないからだ。

IT技術の人々が、幕をあける瞬間に立ち会ってくれるだろうか?照明信号の伝送やオーディオストリームの伝送で発生したさまざまなトラブルを、彼らはすぐさま解決してくれるだろうか?否、それは不可能だろう。たとえ取り扱うデータがIPパケットだとしても、舞台空間において、発生している状況を見たり、聞いた上でその因子を特定できるとすれば、それはまぎれもなく舞台技術だと言えるだろう

結局、舞台は舞台人のものなのだ。 ネットワーク設備を施工する際、もし音響、照明、舞台の各分野において、メーカーやIT技術の企業が、ネットワーク技術を特別化し、特別な人にしか操作ができないような対応をしているとしたら、それは舞台の現場を知らないか、舞台への愛情がない人々だと思う。

ネットワーク設備において、もちろんIT技術のヘルプは必要だろう。しかし運用は舞台人が行うべきであり、それができないのなら、無理な設備を入れるべきではないのだ。そのネットワークスイッチで起こっている事を舞台の人が理解できないとしたら、常にそこにブラックボックスが存在することになる。それが正しい設備施工だろうか?

われわれIT技術に理解のある人間は、舞台の人がそれぞれの仕事に専念できる環境を作り、どのような機材を導入し、どのような運用方法があるかを教える役目があるとしても、決して自分たちがいなければ成立しないというような情報操作や、立ち居振る舞いは、あまりに偏向した対応だと言わざるを得ない。舞台では、そのような事があってはならないのである。音響や照明の分野において、自分たちありきのネットワークインフラなどという妄信は舞台に対する冒涜とも言える。




2013年1月3日木曜日

劇場のネットワークインフラ設計思想

 これからの10年、舞台照明に、映像要素がより深く関わる事は、誰の目からもあきらかで、それはこれまで存在したスライドプロジェクションの演出が、デジタルプロジェクターに置き換わる事象としてみれば、自然な成り行きとも言えるでしょう。

この映像演出の高まりによって、劇場では映像伝送のためのインフラ設備も同時に必要となる事を意味し、さらにそのインフラは映像を伝送する以外に、機器の制御も考慮したものが必要となり、その点では、今の照明ネットワークインフラが重要な役割を担うと考えられます。

 劇場に求められる映像向けインフラ


私は、劇場のネットワークインフラについて、以前から光ファイバーをバックボーンにしたリングトポロジーによるネットワークシステムを提案しています。この方式は、照明の制御信号のためのリダンダントシステムという意味だけでなく、マルチコアで敷設した光ファイバーを映像にも活用できる点と、ケーブル長をできるだけ抑える事による経済的な面でも、この方式がいかに合理的判断かを顕著に示すこれら利点があるからです。

劇場のネットワーク設計について(詳細)


現代の劇場のネットワーク設計において、重要な事は、新しい演出への柔軟な対応を考慮することで、それは照明だけでない、演出のためのインフラ設備を意識する必要があると思います。(照明のネットワーク化がはじまった10年前とは、もう違うのです)

そこで、2013年以降、劇場の ”演出のために施工するインフラ設備” は、以下の要点を加味して設計すべきではないか というこのブログからの提案を記してみたいと思います。

  • マルチプロトコルの許容(VLAN可能なスイッチ選択)
  • リダンダントな設計思想(経路の2重化は必須)
  • 光のマルチコアによるバックボーン回線の敷設
  • 光ファイバーの拠点は、映像を取り出せる意味で投光可能なポイントを選択
  • 光の端末位置は、上手下手など片側に偏らず劇場全体で見て均一な配置にする

今後、照明のネットワークは、さまざまなプロトコルが同居する世界となります。と同時に、そこには照明以外の映像機器の制御プロトコルやファイル伝送のインフラとしても活用する可能性は十分にあります。

ネットワークが劇場の全体に敷設される可能性は音響よりも照明のほうがはるかに可能性が高く、 劇場のあちこちにネットワークポートがあることで、そこにファイルトランスファーの活用を期待する事も自然です。またインカム回線として使用することも可能で、さらには、タイムコードやキューコールのシステムを混在させる事も可能であり、正しい知識があれば、それらが同一ネットワーク上に共存することがいかに簡単かを理解できるはずです。

こうした多目的に活用が期待される照明のネットワークには、今後グルーピング可能なスイッチ選択が必要になるほか、バックボーンは光ファイバーにして1ギガ帯域は確保すべきでしょう。また、経路の二重化は、照明だけでなくインカム回線や映像機器の制御など重要なインフラになるものですから、冗長化は必須であると思います。そして、光の端末は映像伝送を意識すると、シーリングやフロントや奥舞台などのプロジェクション位置に設定することで、非常に有効活用できるのではないでしょうか?

以上のような点を考慮すると、照明のネットワークインフラ設計は、劇場で行う演出のために存在するインフラであり、今後、さらに重要度が増すと考えられます。





2012年10月16日火曜日

カラーミキシングの考察  Part3

 LEDが照明業界で実用化されるまで、全盛をきわめたCMYカラーミキシングにおける問題点は、光源にHIDランプを多用するため、HIDランプの特性である不連続且つ青色成分のほうに比重の高いスペクトルに加え、ムービングフィクスチャーの機構がきらう熱を極力、前面へ放出しないコールドミラーの影響により、赤が出にくいという点にあります。

また、CMY個々の ダイクロイックフィルターの色味の違いや、その機構の違いにより、色の混合にむらが出てしまうものがあったり、Fixture間で色のばらつきがでてしまう事なども問題となりました。さて、LED全盛の今、こうしたCMYのカラーミキシングに対し、RGBミキシングは、問題解決となったのでしょうか?


より濃い色を作れない

LEDは、RGBの3色を使って色を作り出します。これはCMYの減法混色と異なり、RGBをすべてミックスすると、理論的にはもっとも明るい白になります。最初に言われたLEDの問題点は、CMYと異なり使用されるRGB個々の色以上に濃い色を作る事が不可能な事です。しかしこれは、搭載するRGBの選択で解決する事から大きな問題とはなりません。



RGBでミックスしても白にはならない

もう1つの問題は、 RGBをミックスする事で作り出されるはずの白は実際には、美しい白にはならず、ややピンクだったり、青白い色だったり、そう簡単に白やハロゲンのランプカラーをRGBミックスで作る事ができませんでした。そうした現実に対応するため、メーカー各社はRGBに加えアンバーやホワイトのLEDを加えた4色、5色で、より正しい白を生み出す努力を重ねました。

フェードカーブの問題

今ではこの4色、又は5色の混合により、白に関してはかなり問題が改善されたものの、次に問題となったのは、なめらかなスムースフェードができず、その色の変化は、DMX制御特有のステップ変化に見えてしまう事、そして点灯する瞬間、カットインのように見える変化についても、大きな問題となりました。しかしこの問題に対しても、メーカーは各色を16ビットにすることで対応したり、フェードカーブを搭載したりすることで、概ね解決されてきたのです。

現在、舞台で使用されるLED Fixtureはなめらかなフェードが可能な4色、5色に加え、マスターインテンシティーとズーム、ストロボなどのパラメーターで構成されるものがスタンダードとなり、すでに多くの人の意識は、基本機能以外の部分に向けられ、ムービングするウォッシュライトか固定タイプかの違い以外に、メーカーもユーザーもより目新しい何かを求めて加熱しているのが現状のLEDマーケットではないでしょうか?

しかし、已然としてLEDには、色のばらつきの問題以外に、色と色のフェードチェンジを行った際に、意図しない色が出現するなど基本的な部分に大きな問題点が残されています。この誰もが諦めていた部分にメスを入れるとともに、出力されるカラーの正確さについて真剣に取り組んだのがLumonic(ルーモニック)という企業です。


つづく






2012年10月13日土曜日

カラーミキシングの考察 Part 2


 舞台照明で利用される光源は、まだハロゲンランプも数多く残りますが、主要な部分では、かなりムービングライトフィクスチャーのHIDランプに置き換えられたようにも思えます。ここでは、舞台の主要な照明器具となったムービングライト、インテリジェントライトが利用する光源であるHIDランプの特性から、光の特性を決める色温度や演色性などについて考えます。


色彩を決定する光の波長

 我々が知覚する色は多くの要素に依存します。これは例えばその光源、光学系、そしてその光源を覆うフィルタとそのフィルタメカニズムまたはその物質のもつ波長により着色されて見えることを指します。本来われわれが、色を色として認識するというのは、物体に光が当たって反射したとき、その反射する波長がどの帯域によるかということです。例えば白色光によって照らされたバナナは黄色く見えます。これは黄色以外の色をバナナが吸収し,反射しないということでもあります。

逆に光源を黄色に変化させるには、フィルタは黄色以外の他の色をブロックすることによって、黄色を産み出します。どちらの場合も、黄色い波長は我々の目に届き、イエローとわれわれは認識するわけです。


(もしバナナに当てるその光源から黄色の波長が発生しない場合、バナナは黄色には見えません)

舞台照明業界において、今も数多くハロゲンランプが使用されますが、すでにムービングライトフィクスチャーが多数を占めるようになっており、特にカラーミキシングシステムにおいて、ムービングライトは主要なデバイスになっています。そしてこのムービングライトに利用される光源は、低電力でより高出力が得られるハイインテンシティーディスチャージランプ(HID)が最も多く使用されます。






HIDソースは、2つの電極の間のアークによってガラスチューブの中にミックスされたガスに電流を通すことによって、光を作り出します。光の色はチューブ中のガスとガス圧力、タイプおよび量の両方に依存します。こうして得られるHID光源の波長は太陽光や白熱電球のような連続的なスペクトラムではありません。

それは特定のガスの特性によって多くの鋭いピークから構成された波長です。この波長のピークをHIDランプのチャートから眺めると、可視光における波長帯域の中で均等にそのピークが存在するのがわかります。このピークを均等に配置することで実際には連続的ではない波長を準連続スペクトルにして近づけているといえます。そしてこの波長の分布によってそのランプの特性を決める2つの要因、色温度、演色性(カラーテンパチャー、カラーレンダリングインデックス)が決まるのです。

色温度

色温度とは、光のもつ色合いがどれだけ白いかを表すもので、例えば色温度が高くなると光は、やや青白くなり、逆に下がると黄ばんだ白に見える。この色の白さの度合いをケルビンという単位で表現したのが色温度です。われわれがよく目にするHMIMSRといった光源の場合、ほぼ共通して4500K〜6500Kの範囲に色温度を持っています。


演色性

物の見た目、外観はそれを照らす光の色に依存します。よって光源のカラーバランス品質を決定するためには、物体が光のもとにどう見えるかを見積もる方法が必要となります。
カラーレンダリングインデックスは、光源がどれくらい照射物の実際の色を再現しているかを表現するものです。

詳しくは8種類の定められた物体色に試験する光源と基準になる光源とを照らし比べて8種の色違いの度合いを平均し、100から引き算して得る平均演色評価数Raを用いています。そのほかさらに厳密な評価にはR9~R15を用います。

CRIは100に近づくほどよく、多くのムービングライトに使用されるHIDソースはほぼ70~95のレンジ内にあります。

レンズとリフレクターによる影響

ランプなどの光源だけではライトとして役に立ちません。その生の出力は、リフレクターによって集められてレンズを通して照射される必要があります。現在、非常に多く使われるコールドミラーは高出力のランプをコンパクトなフィクスチャー内に搭載することを可能としました。コールドミラーは、可視光をだけを反射し、目に見えない赤外線などの波長を反射しません。

赤外線のエネルギーつまり 熱はムービングライトフィクスチャーにおいては非常に大きな問題であり、コールドミラーの使用はそれをカットすることでこの熱の管理を容易にしました。しかし、このシステムが犠牲にする赤外線のスペクトルは赤という色を持つ波長であり、このミラーを使うことによりその波長がカットされるためにムービングライトは濃い赤が出せなくなる問題もはらんでいます。また、レンズも色の温度を低下させたり、グリーンの波長をカットすることで、光の品質にかすかに影響を与えています

ほとんどすべてのフィクスチャーの出力は使用する光源であるHIDソースに頼っており、このランプのカラー特性は中に封入されるガスによって決定されます。
この製造プロセスにおける誤差はガスの封入に影響し、そして、ランプの温熱環境の変化は光の量と品質の両方に影響することがあります。

では、もしすべてのランプが同じであったとして、それでもめったにフィクスチャーは同じ出力にはなりません。それはそのフィクスチャーモデルとミラーコーティング、レンズの材料でさえ作り出される光のキャラクターを顕著に変えることができるからです。

このような状況では、HID光源を利用するCMYカラーミキシングでは、どんなシステムを利用しても同じような出力は得られないでしょう。そこで次に登場したのがRGBのカラーミキシングとなるLED光源です。


つづく





カラーミキシングの考察 Part 1




 照明のためのカラーミキシングシステムは、ムービングライトに搭載されたCMYの減法混色の仕組みでクロスフェード可能且つ数多くの色を生み出すことが可能となり、照明家は色に関する自由を手に入れたように思えました。


しかし、カラーミキシングに関しては、さまざまな問題点が残されており、それは今のLED時代に入ってもまだ、完璧とは言えないものがあります。

私は、今年、劇場の照明家にとって、もしかするとこれまであったカラーミキシングシステムの解決を図るコンセプトになるかもしれないLumonicのilumoというFixtuteに出会いました。このかつてないコンセプトについて考えるにあたり、2004年、私が日本照明家協会雑誌の編集委員をしていた頃、同誌にLighting & Sound 誌にあった記事を日本語に編集してご紹介した内容を元に、過去のカラーミキシングについて振り返りながら、光で生み出す色について考えてみたいと思います。

 Lighting & Sound  2004年ごろの記事


 求める色を自由に表現するというのはアーティストにとって必要不可欠であるように、これは照明デザイナーにとっても非常に重要な要素であるといえます。芸術家は自身の求める色を作り出すために絵の具を混ぜることができますが、これは照明デザイナーにとっては非常に難しいことになります。多くの照明家が望むのは、ステージセットやそのムードに合わせ、客席やコントロールコンソールの前にいながらにして自由に設定できることでしょう。この照明家の夢をかなえるべく、リモートコントロールのカラーチェンジャーが登場したのは1970年代の終わりごろで、実用化されたのはワイブロンのカラーマックスが最初ではなかったでしょうか?


 











その後、さまざまなカラースクローラーが登場することになるわけですが、ここには1つ問題がありました。それはカラーの数にリミットがあったということです。カラースクローラーはカラーフィルターをスクロール状にしたロールを動かして色を変えるわけですがそこには搭載できるフィルターの枚数(長さ)に制限があり、すべての色を自由にとはいきませんでした。

そして、オートメイションライティングの到来です。このカラーミキシングシステムを持つまで、われわれは20年の歳月の中さまざまな発明、そして特許とともに何百万ドルもの費用をかけてきたのです。果たして今、われわれはその夢の実現に到達したのでしょうか?20年余りの歳月をかけ、どんな色であっても色から色へのスムーズなフェード効果を得ることができるのでしょうか?







あるひとつの側面であるカラーミキシングを搭載したフィクスチャーの今日の数から言えばそれはイエスと言えるかもしれないし、一方、なぜ同じシステムを持つフィクスチャー間で、なぜ色が同じでないのか?また、同じDMXレベルであるにも関わらず例えば ”なぜ同じラベンダーが作り出せないのか”といった問題もあります。
 


今日、オートメイテッドフィクスチャーのカタログを見ればそこには1670万色のカラーミキシングが可能だとあります。これは驚異的な数であり、この色数であればLEEROSCOそのほかほぼすべての色見本にあるようなカラーフィルターの色はすべて再現できると考えてもよさそうです。しかしカラーミキシングの機構は複雑且つ多種多様であり、より多くの視点からこの問題を見ていくことでこの答えを出したいと思います。


つづく

2012年10月9日火曜日

色彩の夢を実現したLED Fixture誕生














 すべての色を自由にそして即座に表現するというのは、カラースクローラーの時代からの、照明家の求める夢であったかもしれない。それはアーティストが、自由に絵の具を混ぜ合わせて自分の求める色を作り出せるのに対して、照明の場合、それは非常に困難であったためだ。

この事は、ムービングライトに搭載されたCyan、 Magenta、 Yellowの3色のフィルターを使った減法混色によるカラーミキシングにおいても、そのカラーフィルターの差異やまたHID光源そのもののばらつきで、均一且つ正確なカラー混合というのは難しく、またその色を異なる器具を越えて統一することは不可能だった。そしてこの正確且つばらつきのない美しいカラーミキシングという果てしない夢は、LED時代全盛の今でもまだ、生み出すのは困難を極めるのです。

ここに紹介する次世代のLED照明器具とも言えるilumoは、現代のLED時代においても難しいばらつきのないメーカーの機種を越えたカラーミキシングを、ユーザーによるRGB個々の調整を可能とすることで解決し、ソフトウェア技術で正確なカラーキャリブレーションを実現しています。これまで、さまざまなLED機器が登場する中、単純なRGBWの見た目の加法混色以上に、カラーの概念をCIEの定義するカラースペースの 再現にまで高めたカラーキャリブレーションというものがあったでしょうか?

このiLumoというFixtutreは、単純な4色のカラーミキシングという使い方以外に、XY座標で指定するCIEのカラースペースの再現や、個体別に原色のRGBを調整することで、他社製品のFixtureが生み出すカラー にマッチした色を生み出すカラーキャリブレーション機能を搭載し、LED素子における色の不一致を解決することが可能です。

また、RGBで生み出すホワイトの色温度を器具のデフォルト値として登録することが可能で、正確な色温度に調整したカラーキャリブレーションも可能です。

(色温度をDMX制御する場合は、これはDMXパラメーターで制御するため、モードによっては無効になる)

一般にLED素子のばらつきはマネージメントができず、その意味で乱立するFixtureのどれを選択しても購入時期によっては、個体差が発生するほか、当然ながら舞台で多種多様な機種を使用する場合において、それぞれのFixtureの色をマッチさせる事は不可能でしたが、劇場のエンジニアや、色にこだわるデザイナーにとって、このFixtureはカラーミキシングの未来を実現したものになるのではないでしょうか?

今まさにLED全盛の中、MRTEでは、このカラーミキシングの革新的な概念をもつFixtureに出会い、これを取り扱うことを決定いたしました。

下記詳細

 http://www.mrte.jp/html/nc.html





2012年10月5日金曜日

映像と照明 境界線上のアリア

 積み重ねられた歴史の中で構築された仕組みが、技術の進歩とともに古くなるという現象が、舞台における映像セクションの不確かな立ち位置に垣間みる事ができる。

今、旧来のプロジェクション装置がデジタルプロジェクターへ置き換えられる可能性が高まる中、長い劇場の歴史において、これまで存在しなかった映像セクションの確立が求められているのは確かではないだろうか?

舞台における映像分野は、比較的新しいせいもあり、多くの劇場では映像という独立したセクションではなく、音響セクションの扱いという形が多数を占める。例えば、イギリスの場合、ナショナルシアターでは音響セクション、ロイヤルオペラハウスも同様、しかしロイヤルシェークスピアカンパニーでは、照明セクションらしい。
(Catalyst のRichard 談 )

しかし残念ながら、今の映像の効果は、より美術的であり、また照明要素が強く、より強く演出に関わるセクションに育ちつつある。そして、その分野では、デジタルコンテンツに対する知識、プロジェクションに関する知識、そしてメディアサーバーのような装置を利用する場合には、DMXに関する知識も求められる。よって、これらは現在の音響セクションに内包されるものではなく、新たなセクションとして確立すべきなのである。

この映像という言葉でくくられるこれまでの映像業界は、映画であったり、コーポレートイベントにおける映像機器レンタルや大型コンサートのカメラ映像を映し出すための大型LEDスクリーンなど、映像を効果として使うというよりは、カメラの映像やPVをきれいに見せることに重きが置かれており、その分野の人にとって劇場で行われる演出は、やや異質な世界にうつると想像する。

その意味では、 いわゆる映像業界の常識が通用しない世界が舞台であり、単に映像素材をよどみなく見せるのではなく、映像を使い舞台を魅せる事に、皆の価値基準は集約される。それは、これまでの映像機器のオペレーションでは不可能な事もありえるだろう。故に、この分野はこれまでにない新しいタイプの人材を要求するのである。この状況は、世界のどの劇場でも、日本と同様、難しい状況に置かれている。

今後、このセクションに関わる人は、映像業界からもしくは照明業界の両方から誕生するのかもしれない。そして、肯定的に捉えるならば、彼らはメディアサーバーを使いこなし、映像をより舞台の情景にとけ込む効果としてデザインできる人々になるのだろう。